この記事は九州編の4番目、建築めぐりの記事です。旅行編もありますので暇な方はそちらもお読みください。
武雄市図書館は2000年に完成した図書館です。設計は佐藤総合計画。佐賀県を観光する際、特に建築が好きな方には外せないスポットです。
図書館と言うとどんなイメージがあるでしょう。私は名古屋市の各区にあるような、いかにも公共的な四角い建物に、本が列になって並んでいるイメージです。しかし近年の図書館はさまざまな工夫を凝らして、面白い空間を作り上げています。
こちらが入口を入った様子です。どうでしょう、2階にずらりと並ぶ本が壮観です。(左下に撮影禁止マークが見えていますが特別に許可を得ています)
かつてコンピュータがなかった頃、人類は新しい知見をみな本に記し、それを保存して後世に伝えていきました。大げさに言えば、本は人類のさまざまな知見や進歩を著した「知の結晶」です。そのため建築学や図書館学では、知の結晶が集まる図書館は「知の殿堂」と呼ばれています。このずらりと並んだ本からは、まさに「知の殿堂」としての雰囲気が感じ取れます。
このように空間づくりを工夫した「魅せる」図書館が最近増えてきました。遠隔地に観光に行った際、わざわざ図書館に寄るようなことは普通ありませんが、こんな素晴らしい空間があれば、図書館自体が観光名所になりますね。
近年の図書館の変化は空間づくりだけではありません。最近では、本好きでない人でもつい長居してしまうような工夫が重視されています。図書館で長居するのは本が好きな人だけで、普通の人は本を返したりするだけで帰ってしまう。そうした傾向を克服し、図書館での滞在時間を増やす新しい取り組みが始まっています。
武雄市図書館では通常の図書館に加え、メディアホールや歴史資料室、自習コーナーやカフェなどを配置しています。市民交流や学習支援など新たな付加価値を増やした「滞在型」図書館といえます。
一方で問題も発生しています。
武雄市図書館は2013年から、公共からCCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)に運営が移管されました。CCCはTSUTAYAの運営母体です。つまり武雄市図書館は実質的にTSUTAYAの図書館になったのです。ということで同年にはさっそくTポイントカードが導入されました。またTSUTAYAとしての売り物の本が貸し出し用図書と同じ空間に並ぶことになりました。
本の貸し出しはTカードで管理するため、TSUTAYA側で利用者がどんな本を読んだかの履歴が残ります。つまり個人の読書情報を私企業が把握できることになります。これは図書館学的には「読書の秘密を守る」という「図書館の自由」が無視されているとされ、問題になっています。
またTカード導入に伴いTポイントも導入されています。公共サービスとしての図書館に営利的なポイントサービスが持ち込まれることに対する疑問の声も出ています。
運営移管前と比べると開館時間は長くなり、利用者数も大幅に増えているようです。ただ図書館というものの歴史的な背景を考えると、行き過ぎた商業化が問題視されるのも理解できます。難しいところですね。
いずれにしても近年の図書館は大きく変化しています。本を読んで貸し借りするだけの場所から、長く滞在できる素敵な空間へ。さらには公共ではなく私企業が運営する図書館も出現してきました。武雄市図書館は、諸問題も含めて近年の図書館のあり方を考える好例だと思います。
全国にはいろいろな面白い図書館があります。当ブログでも有名建築として、図書館を時々取り上げてみたいと思います。